Just another legal philosophy student

  • 人前で話すことについての覚書

    某所に招かれて、学生の方々に話をする機会を頂いた。反省点しか無いのであるが、忘れないように――そして同じぽかをやらかす人が減るように――メモを残しておく。要するに「離見の見」を身に着けなきゃねという点に尽きる。申し訳ないなと思いながら貴重な体験になった。

    ・明快さと「遊び」
     枝に新芽が付くように、議論に入りやすい余地を残す技術はないだろうか。自分が提供できる情報を明快にする点はもちろんだが、新たな視点・多角的検討が入りやすい余地を残すにはどうするのがいいのかがなかなか難しかった。情報を消費するのではなく、情報を生み出す側として考える必要がある。

    ・知識量をぶつけるのではない
     相手が前提として知っている情報は何か?自分の知っている専門知識をぶつければ良い、というわけではない。
     楽器の演奏で自分がどんな音を出しているのかを意識しながら演奏する、管理された耽溺が重要なように、今語っていることに冷静に、聞き手の知識とどう関連するかを語る必要がある。
     そのためにも、自分の専門の余剰が大事。一つの専門ではなく複数の専門を持った上で初めて専門性が生まれる。例えば実定法がわかることの強み。法哲学と実定法をつなぐのはナニカ、という話で。これはね、辛いね。いや、うん。せめて単なる知識としても知っていることはやはり大事。勉強が物を言う。

    ・媚びは伝わる
     むやみにウケ狙いはよくない。かと言ってあたかも老人であるかのような語り方もまた鼻につく。聞き手の学生は20歳前後とは限らない。意図的に素直に語る。簡単なようで難しい。

    私の場合は何事も失敗しないとわからないので、とても貴重な経験をしたと思っている。

  • 電子書籍で読める法哲学の教科書

    緊急事態宣言の対象地域が全国に拡大し、Covid-19感染予防のために大学でも映像配信とオンラインでの課題提出を使っていくところが大変多くなっている。

    今の時期、学部生は教科書や参考図書を手に入れるだけでも結構な骨折りになるのではないだろうか。

    私の所属する大学の図書館では、借りたい本と希望の受取日を予めメールする必要がある(記事執筆時点2020/4/18)。教科書の中には図書館蔵書が一冊二冊しかないものがあり、アクセスできないから困る、ということもあるかもしれない。

    そんな中、Amazonの書籍在庫が減っていることは心配のタネである。出版社では直接注文を受付けているようだから、財布の許す限りとはいえ、大手の通販サイトに在庫がなければ出版社に直に注文するという手があるだろう。実際、出版社各社では下のように呼びかけている。

    とはいえ、である。大学から離れた実家にいて、図書館で借りようにも移動ができないとか、販売在庫がない、という本もあるかもしれない。

    誰の役に立つのかわからないが、最近50年ぐらいで出版された法哲学の教科書(日本語)に限って電子書籍・オンラインで読めるものを探してみた。学部生というよりは講義をする人向けかもしれないが、講義をする先生方はこんなサイト見なくてもすでにご存知かとは思う。結果として興味本位で読んでくださる方向けポストになったのは否めない。あと英語でStanford Encyclopedia of Philosophyを読めばいい、という玄人筋はそもそもそちらを読んでてください…。

    <大手の販売サイトで電子書籍が売られているもの>

    Amazonやhontoなどで電子書籍の形式で販売されているもの。値段は紙のものより少し安いぐらい。教科書と言いうるのは一冊しかないという荒野状態だが、その一冊がかなり新しい教科書である瀧川・宇佐美・大屋『法哲学』であるという救い。執筆時点での法哲学教科書のなかで一番新しく内容も豊富な酒匂一郎『法哲学講義』(成文堂)がオンラインで入手できないのは残念。

    hontoのアフィリエイトを入れているのでポチッとしてくれると研究の足しになります。そういうの嫌だと言う方は書籍タイトルで検索してください。

    瀧川裕英・宇佐美誠・大屋雄裕『法哲学』有斐閣 (‘三人本’)

    法哲学

     先述の酒匂『法哲学講義』と並んで現在手に入る日本語の法哲学教科書の最も標準的なもの。下記二冊と比較したとき、教科書らしい網羅性がある。「法哲学」と題された講義で扱われる大抵のトピックの基本的な事柄と基本文献が載っている。ある程度距離をおいた説明がされているので、読む際には書き手のクセが理解を妨げるということが少ないだろう。
     個人的にはJ.オースティンについて結構な説明がされているところがポイントが高い。
     この本とほぼ同時期に出版された教科書に森村進『法哲学講義』(筑摩書房)があり、こちらは法概念論の記述が厚い。ただ酒匂『法哲学講義』同様にオンラインでは入手できないので紙媒体を探されたい。

    千葉正士『世界の法思想入門』講談社

    世界の法思想入門

     こちらは「法哲学」と冠された講義で扱う内容を広くカバーしたものではない。教科書ではあまり触れられることのない、非西洋の法体系における「法」について検討している点では独自性のある本。研究の補助線や新たな研究の手がかりにはなるが、手元において講義の予復習で読むには独自路線過ぎる。

    長尾龍一『法哲学入門』講談社

    法哲学入門

     「入門」と書いてあるとき、入門する先が、その分野一般なのか著者の考えなのかは大きな違いがある。これはどちらかというと後者。読みやすい本だが、いわゆる「教科書」というわけではない。一人の法哲学者の目から見ると物事はどのように見えるのかはわかる…かもしれない。

    ・中山竜一『法学』岩波書店

    法学

    法学入門の本…かのようなタイトルだが、目次をよく見ると法哲学の本である。法道具主義や制度的想像力の話に触れるなど他の教科書にはない守備範囲を持っている点も注目したい。著者は、20世紀の法哲学についての標準的な教科書・『二十世紀の法思想』(岩波書店)や後で触れる中山他『法思想史』の著者でもある。

    ・長谷部恭男『法とは何か(増補新版)』河出書房新社

    増補新版 法とは何か

     「法思想史入門の決定版」という触れ込みだが、著者は憲法学者として知られている。
     なお法哲学者による法思想史の教科書としては、2019年に中山竜一・浅野有紀・松島裕一・近藤圭介『法思想史』(有斐閣)が出ているが紙媒体での購入しかできない。また下記Maruzen ebook Libraryで提供されている森村(編)『法思想の水脈』も参照。

    <Maruzen ebook Libraryで検索して出てきたもの>

    Maruzen ebook Libraryでは2020年4月10日から2020年7月31日まで一部の書籍の同時アクセス数を50に引き上げている。
    (参考URL(PDFが開くので注意):https://kw.maruzen.co.jp/ln/ebl/ebl_doc/mel_notice_jinsha6access_expantion.pdf

    大学図書館が契約しているMaruzen ebook libraryに登録されているものを挙げてみた。前述の電子書籍での販売に比べると少し選択肢が増える。

    Maruzen ebook Libraryの場合、そもそも同データベースと契約してあるか、そして契約してある場合どの本を購入してあるかは、大学・機関ごとに異なると思う。各自確認していただきたい。以下、順不同。

    瀧川・宇佐美・大屋『法哲学』有斐閣
     (既述)

    瀧川裕英(編)『問いかける法哲学』有斐閣
     前述の三人本が正面から話題を説明しているのに対して、こちらは法哲学上の問題となりうるケースごとに検討している本。三人本が教科書ならこちらは事例演習本だろうか。ひとつの問題に学問的にどのようにアプローチするのかという事例が並んでいて、レポートや論文のお手本にもなる。

    安藤馨・大屋雄裕『法哲学と法哲学の対話』有斐閣
     怪獣大戦争

    ・笹倉秀夫『法哲学講義』
     教科書として想定して書かれた本。20世紀の法哲学の教科書で書かれていたような法の特質の説明から始まり、民主主義論など極めて戦後日本特殊な話題を扱っている。著者の関心が色濃く反映されている。

    ・田中成明『現代法理論』有斐閣
     少し古いが、いわゆる「法学の教科書」っぽいテキスト。法哲学の本を読んで新鮮さを覚える法学徒は、この本には懐かしさを覚えることだろう。
     正義論にも触れるけれども、この本の特徴は現代裁判制度論にあり、特に法の妥当性を受け入れて使うものの視点(内的視点)から書かれていることにある。法哲学に苛烈な偶像破壊を期待する人には、保守的な本に思えるかもしれない。
     この本は同著者による『法理学講義』(1994)を経て『現代法理学』(2011)へとアップデートされる本の原型と思われる。『現代法理学』は現在紙媒体でしか入手できないが、院試の際はお世話になった。

    ・森村進(編)『法思想の水脈』法律文化社
     執筆者陣は法哲学専門率が高めで、それぞれが専門とする法思想について書いている。その結果として、他の法哲学の教科書でほぼ必ず出てくるような法哲学者の多くが取り上げられている。
     普段法哲学の教科書では扱われない(講義では扱うかもしれないが)、ポストモダン法思想についての章で終わっている点が特筆に値する。

    足りないものがあるかもしれないので後でまた追記する。

    (2020/4/20 中山竜一『法学』、長谷部恭男『法とは何か』追加。一部文章表現を変更、リンク貼り。)

    (2020/4/23 Tweet追加。)

  • 論文が出ました

    やっとかという。この難しい時期に紀要が出た事自体がありがたい話。なお第19巻第1号は特別な記念号になっている。ご興味の向きはどうぞ。

    >「強制性と法の概念:フレデリック・シャウアーのThe Force of Law」一橋法学 第19巻第1号 131-159頁 http://hermes-ir.lib.hit-u.ac.jp/rs/handle/10086/31124

    内容はタイトルのとおり、Frederick SchauerのThe Force of Law (Harvard University Press, 2015) の検討。海外で発表した際「いまやAustin/Command TheoryといえばFredだよね」と言われて、そうなのかな?と疑問を呈するために書いた論文。

    この本については雑誌で特集が組まれるなど、出版後に注目を集めた。評者によって観点が異なっていたため、論文中で全てを紹介することはしなかった。英語での書評特集のみになるが、備忘録的にまとめておく。

    Jurisprudence誌の特集

    >Jurisprudence Vol 9, Issue 2 (2018) Book Symposium: Frederick Schauer, The Force of Law https://www.tandfonline.com/toc/rjpn20/9/2

    Jurisprudence誌の特集は、法概念論に着目したコメントが多めで、Ratio Juris誌は法哲学方法論に近い議論が多い。法の強制性を研究してきたG. LamondR. C. Hughesの書評が収録されており、moral impact theoryのGreenbergも寄稿している。個人的にはPintoreの書評が最後の方面白かった。

    Ratio Juris誌の特集

    >Ratio Juris: Vol 29, No 2 (2016) https://onlinelibrary.wiley.com/toc/14679337/2016/29/2
    >Ratio Juris: Vol 29, No 3 (2016) https://onlinelibrary.wiley.com/toc/14679337/2016/29/3

    Ratio Juris誌の方は2号に渡っている。難解な論文が多い。Greenの論文は華はないがHartの法実証主義を支持するものだったらこうなりますね、というプレインな論文。Spaakの論文はSchauerのAnti-Essentialismに「本気で言ってる?」と疑ってかかった上で、「ちなみにそれはOlivecronaがやってるよね?」と北欧リアリズムの検討をすすめる。難しいけど言うべきことを言っている論文。

    あとRatio Juris誌のNo 3の方にはMorrisonの ‘Law Is the Command of the Sovereign: H. L. A. Hart Reconsidered’ という強気の論文が載っている。Hartの議論のあれもおかしいしこれもおかしい、という形で正面突破をする元気の出る論文。(成功しているかは措く。)

    また、The Force of Lawに触発された、こんな本もある。(ちゃんと消化していない。)
    >Bezemek, Christoph, and Nicoletta Ladavac (Eds.). (2016). The Force of Law Reaffirmed: Frederick Schauer Meets the Critics. Springer. https://www.springer.com/gp/book/9783319339863

    またこういう本も出ている。
    >Bersier-Ladavac, Nicoletta, Christoph Bezemek, and Frederick Schauer (Eds.). (2019). The Normative Force of the Factual. Springer. https://www.springer.com/gp/book/9783030189280

    Springer、値段が高いんだよなあ。一応図書館でオンラインアクセスできるおかげで、外出しないでも閲覧できる。

  • 英語発表についての覚書

    英語でしゃべるのが固まって降ってきたので忘れないうちに覚書(発表についてはResearchmapの2020年2月参照)。

    ・「使用言語:英語」は同じとは限らない
     第二外国語として英語でしゃべる人と英語を母語とする人は同じではない。(当たり前だ。)
     ネイティヴ(かあるいはそれに限りなく近い人)が多めの想定で全力でいったところ、想定ハズレで塩反応ということもある。
     しゃべるスピード、語彙選択、冗談の作り方。いろいろ気をつけないといけない。
      聞き手にとって聞きやすいスピード=自分にはちょっとゆっくり、なので自覚しないと。ゆっくりしゃべるのも大事。
     
    ・(一周回って)意外と忘れがちな語末の子音
     英語は獲得した言語だからね。これはもう頑張るしかない。頑張る。

    ・「英語うまいですね」
     わざわざ言われるってことはつまり察したほうがいい。言われなかったので嬉しいっていう案件が一個あった。

    ・何よりも、中身
     語学の多少と中身の多少のトレードオフには限度がある。勉強しないと。