『法と強制』刊行されました

拙著『法と強制:「天使の社会」か、自然的正当化か』が勁草書房さまより無事刊行されました。

目次は勁草書房のページで確認できます。また、序章も公開していただいているのでぜひご覧ください。

こちらの本については、一橋大学の教員著作ページにも紹介文が載っております。以下の内容の一部はそれと重複するところがあります。

【成り立ち】

この本は博士論文を元にしたものでして、博士論文の本体はちょうど新型コロナウイルス感染症の蔓延が日本でも始まった2020年に執筆されました。感染症対策において「強制によらない」ことがとても重視され、ソーシャル・メディアを見れば全員が「強制」のことを考えているのではないかとすら感じられる日々のなかで、「法が強制するとはどういうことだろうか」と踏ん張って書いたものになります。

官憲に火炎放射器を持たせステイホームを求めるといった明らかに法と強制の話題に乗っかってきそうな事例が耳目を集める一方で、シャウアーが The Force of Law (2015)で論じていたような非強制的手段(例えば「公表」)の活用、おなじみアーキテクチャやナッジ(選択アーキテクチャ)があふれる中で、長く考えられるべき問題はなんだろうか…といったことをウンウンエイヤッとまとめたため、ちょっとした社会情勢の変化では吹き飛ばない…かは分かりませんが、しばらくは読んでもらえるに値するものが書けたのではないかなと思います。

もっとも、その分やや生硬なところもあり、とりわけ第5章については今後やるべき課題を積み上げたバケット・リストのようです。これについては、今後背負っていくことになろうかと思います。

【見どころ】

この本の見どころを著者自ら挙げることで読書体験を限ってしまいそうですが、著者としてここは…というところがあるとすれば、第一にそれはノージックの「強制」研究です。ノージックの業績といえば、その著書『アナーキー・国家・ユートピア』の正義論への貢献か、Philosophical Explanations (Harvard University Press, 1981) における認識論へ貢献(Gettier問題関連)が想起されるところです。とりわけ前者との関係で、<どのようなときに提案は強制(脅迫)になるのか>という問題についても彼は一家言あり、Stanford Encyclopedia of Philosophyの‘Coecion’ (「強制」) 項目でも一つのターニングポイントとして取り上げられています。…まあ、拙著『法と強制』は、わけあってノージック説は採用しないのですが。

もう一つ。シャウアーのThe Force of Law以外の本ももっと読まれるとよいな、という気持ちもこもっています。シャウアーについては那須耕介先生の先行研究でしっかり紹介・検討されていますし、シャウアー自身の書いた多くの論文がSSRNで公開されているため、読もうと思えば読めるのですが、やはり日本語でアクセスできるのが大事だと思います。 (彼の著作については一本だけ翻訳を見つけました。) 私の本がそんなにすごいインパクトになるかはわかりませんが、シャウアーの言っていることが面白いと思ってくださる人が増えたら嬉しいです。『法と強制』は、シャウアーのThe Force of Lawもまた支持しないのですが、実効性確保のために何ができるかに振り切っている点で色々と考えさせられる興味深い本だと思います。

輪転機から生まれたばかりの本ですが、書店で見かけたらぜひお手にとって見てくだされば嬉しいです。

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