近刊:シンガー編『何か本当に重要なことがあるのか?』(勁草書房)

下記、8月末に出ます。ぜひぜひ。

上の2冊が同時に出る形になります。第3巻でパーフィットの超巨大哲学書が完結なのはいいとしても、シンガー編の論集も一緒に出るの?と不思議になる方もおられるかもしれません。

まずそもそもとして、原著と関連する出来事の順番は以下のようになっています。(なお、以下の簡単なまとめは基本的に翻訳既刊の第1巻・第2巻+今回出る2冊の記述を参考にしています。)

  • 2002年 パーフィットのタナー講義@カリフォルニア大学バークリ校
  • 2010年 プリンストンでの大学院セミナー by シンガー
    • パーフィット提供の1(とおそらく2)巻の草稿を元に検討
  • 2011年 On What Matters Vol.1&2 『重要なことについて』 第1・2巻
    • 翻訳既刊
    • 第1巻の特にII・IIIはタナー講義
    • 第2巻IVはコメンテイターによる検討、Vは応答 + VI 規範性について
  • 2017年 Does Anything Really Matter? シンガー編『何か本当に重要なことがあるのか』
    • シンガーのセミナーの参加者を中心に寄稿
    • 序文(vii)に書かれた通りの「ある予期されなかった出来事」のため、パーフィットの応答と一部の論者の補論は独立した本にまとめることに↓
  • 2017年 On What Matters Vol.3 『重要なことについて』 第3巻(2017年)
    • シンガー論集と同時発売。

シンガー論集と第3巻は同日発売だったそうです(2017年1月にパーフィットが亡くなった直後)。監訳者の森村先生に直接伺ったわけではありませんが、シンガー論集と第3巻が同時に出るのもそれを意識してのことでしょう。ただ、2冊の成立事情は若干前後があり、まずタナー講義を元にした原稿があり、それについて検討するシンガーのセミナーがあり、それへの応答から第3巻が生まれたという形になります(シンガー論集「序文」vii)。ということで、本体シリーズが完結して別冊付録がシンガー論集というわけではなく、むしろ『重要なことについて』第3巻のきっかけを作ったのがシンガー論集に含まれたいくつかの指摘だった、ということになります。

シンガー論集の成り立ちについては、「けいそうビブリオフィル」で公開されている同書の序文にもありますので、ご覧になってみてください。

(この辺の話をすると、どうしてもパーフィットの性格とそれに起因する彼の原稿の扱い方にも言及したくなるのですが、そのへんはパーフィットが生前に出版した『理由と人格』・『重要なことについて』2巻それぞれの訳者解説のほか、児玉聡『オックスフォード哲学者奇行』(明石書店,2022)に詳しいです。)

さて、私がちょっとだけお手伝いしたのはシンガー論集の方なのでそちらについてもうちょっと。原題 Does Anything Really Matter? は思わずニヤっとするぐらいに尖ったタイトルです。しかし、寄稿している人はみんな真面目ですし、各章の著者名を見て「ああ留学時代にこの著者のあれを読まなきゃいけなかったっけなあ…」となるぐらいには代表的な英語圏の哲学者が寄稿しています。(例えば、私が担当したテムキンについては、J.ラズの『自由の道徳性The Morality of Freedom』(Oxford University Press, 1988) を読むセミナー@UCL哲学科で関連論文として紹介されて初めて知ったと記憶しています。)内容の重要さに加えて、パーフィットを取り巻く同業者の関係が見えるという意味でも‘興味深い’論集になっていると思います。

私が訳したテムキン論文ですと、タイトルの「パーフィットの一生は無駄だったか? Has Parfit’s Life Been Wasted?」はもとより、「パーフィットにとってすら難しすぎるっていうのに、私がメタ倫理学なんかできるわけなかろう!?」と論文構想を放棄してしまう話とか、デレクは基本的に正しいこと言ってると思うけど一応これも仕事だから賛成しかねるところだけ検討するね?と言って論文を書き始める同業者仕草とかに友情(?)が溢れていて、笑ってしまいました。

ぜひ書店・図書館などでお手にとって見てください。

一読者として思ったこともちょっとだけ記しておきます。四半世紀ほど遡りますが、一連のパーフィット著作を訳されてきた森村先生は『理由と人格』を訳した際に訳者解説で次のようなことを書かれていました。(孫引きを含みます。)

「本書[引用者注:『理由と人格』]の邦訳は、『私にはそれが可能であるといふ自負が、私以外の誰に可能であらうといふ盲信独断に変わるまで』(塚本邦雄『定家百首』跋[原文の旧字を新字体に変えた])に影響を受けた書物の翻訳ではあるが、それでも原文の英語らしい表現やパーフィット特有の表現が自然な日本語に置き換えら得なかった箇所は少なくないし、思いがけない誤訳・不適訳もあるだろう。」

森村進「訳者解説」、デレク・パーフィット『理由と人格』(勁草書房,1998),750ページ.

…ランナーズ・ハイみたいなものでしょうか。(9年間ご苦労については第2巻の訳者解説で触れられています。)

※2023年8月19日 元の刊行順序を考慮に入れた紹介に書き直し。
※2023年8月20日 けいそうビブリオフィルへのリンク追加。

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